伊藤の診療では、心臓の検査や処置を行うにあたり、鎮静剤の使用をご案内することがあります。
ご家族の同意のもとで行いますので、鎮静をご希望される場合は、以下の説明に目を通されたうえでご依頼ください。
鎮静の目的
- 検査や処置中の動物のストレスを減らす
- 興奮や緊張によって動物の状態が悪化するのを防ぐ
- 検査中に動物が動いてしまい、検査結果が不正確になるのを防ぐ
- 動物が興奮し、心拍数、血圧、心臓の動きなどが変化してしまうのを防ぐ
- 胸水や腹水を抜くなど、動くと危険な処置をしているときに動物が動くのを防ぐ
- 検査・処置中の咳を減らす
などの目的のため、鎮静を行います。
獣医療関係者でもなければイメージしづらいと思いますが、実は心臓の診察中に興奮や緊張が強すぎると、さまざまな問題が起こりえます。
鎮静は、犬や猫をまどろんだ状態にして、検査や処置に対するストレスを感じにくくさせ、動物の安全や検査の精度を高める方法です。
ちなみに、鎮静と聞くと麻酔のように眠らせる方法を想像される方が多いですが、大半のケースでは眠りません。
方法
以下の方法で鎮静を行います。
- 薬剤 酒石酸ブトルファノール(商品名ベトルファール)
- 用量 体重1kgあたり0.1~0.4mg/kg
- 投与法 静脈内注射 or 筋肉内注射
酒石酸ブトルファノールは複数の効果をもっており、痛み止め(鎮痛薬)として承認されている薬ですが(製薬会社のサイト)、鎮静薬としてもよく用いられるお薬です。
安全性
酒石酸ブトルファノールは安全性の高い鎮静薬です。
原理的にリスクがゼロの医療行為はないため、「絶対に安全」という表現はできませんし、鎮静薬というカテゴリーに属するお薬の中には、心臓の動き、血圧、呼吸を大きく抑えてしまうものもあって、心臓病の動物への使用に注意が必要なものがあるのも事実です。
しかし、酒石酸ブトルファノールはそれらの効果が小さく、心臓病でも比較的安心して使用できる鎮静薬です。
世界中の獣医師が参考にしている犬や猫の心臓病のガイドラインでも、鎮静薬の候補として挙げられています。(出典1、出典2)
伊藤の診療でも、これまで数百回以上はこのお薬で心臓病の犬や猫に鎮静を行ってきていますが、今までのところ、急変や事故は発生していません。
ご帰宅後の様子と対処
鎮静剤の効果は数時間〜半日ほど続くため、診療を終えてご帰宅した後にも効果が残ることがあります。
よくあるパターンとしては
- いつもと変わらない
- うとうとする or 寝てしまう
の2種類があります。
1の場合は、鎮静前と変わらない様子で帰宅し、「本当に鎮静剤を打たれたの?」と言いたくなるようなパターンです。
いつもと変わらない状態ですので、その日の食事も散歩も遊びも、いつも通りにしていただいて結構です。
2は、院内では緊張が勝って起きていたものの、自宅に戻ると気が緩んで眠くなるパターンです。
薬の効果でうとうとしているだけで調子が悪いわけではありませんが、愛犬愛猫が望まないなら、その日は食事や運動などは無理に行わせず、そのまま休ませてあげてください。
翌日には薬の効果は切れていますので、いつもの生活に戻ると思います。