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安静の大切さ

ここでは「安静の大切さ」についてご説明します。

病気の時は安静が大切です

病気になると、お医者さんから「安静にして下さい」って言われますよね。
身体に余計な負担をかけないで、治る事に集中させてあげたいからです。
カゼの治療だって、お薬よりも、まず安静が一番ですしね。

心臓病の時は

さて、心臓病も同じなんですが、さ・ら・に大事と言っても良いかもしれません。

なぜかと言うと、

心臓というのは他と比べて極めて興奮に反応する臓器だから

なんです。

あなたが200メートル全力ダッシュした時、何かの発表で物凄く緊張した時、
心臓がどうなっているか思い出して下さい。

ドッキドキ、ですよね。

実際、走ったりするためには、体がいつもより大量の血液を必要とします。
それに応えるために心臓もいつもより頑張ります。


では、運動時心臓はどれくらい頑張っているんでしょうか?


なんと、普段、心臓が送り出している血液の量を「1」とすると、
運動時には「4」とか「5」になります!!

心臓にとっては仕事の量が4倍にも5倍にもなっている、という事です。

仕事の量が4〜5倍だと、疲れ具合はどうでしょう?

自分のお仕事で考えて頂ければ分かりやすいかと思いますが、4〜5倍で済まないでしょう。
恐らく、それ以上ですね。

心臓も一緒です。

結構頑張り屋さんなんだなと思ってやって下さい。

「うわ〜〜っ、心臓、大変なんだあ…」

と思われたかもしれません。

その通りではあるんですが、裏を返すと、

普段の心臓はものすごく余裕しゃくしゃくで仕事をしている」

という事でもあります。

つまり、普段のレベルが心臓にとっては楽勝なのです。
ドキドキが速くなってくると、心臓も「ちょっと仕事するか」になってきます。

なにしろ一生休まず動き続ける臓器です。
最初から持ってるパワーが凄いんですね。

ちなみに、運動時は4〜5倍の仕事量に!と言っても、「最大で」です。
いわゆる全力疾走にあたるような時の話です。

軽い運動や、ちょっと興奮したくらいでは、そんな負担にはなりません。

  • ごはんや散歩など好きな事の前、
  • お留守番で家族が帰って来た時、

ほとんどの子は喜んではしゃぎ回って大興奮だと思いますが(ウチの犬もそうでした)、
よほど心臓がやられてきていなければ、大して問題も無いという事です。

負担という言葉はクセ者でして、

「運動したら心臓に負担がかかりますか?」

と言われたら、

「かかります。」

とお答えする他ありません。



でも、大事なのは、

  • どの程度の負担があるのか?
  • それが、ウチの子の場合、受け入れられるレベルなのか?

というところです。

興奮したり、運動したりしても、何ともないのであれば、その程度のレベルという事です。
そこまで気にされる必要は無いと僕は思います。

ただ、心臓病が悪化していく要因を知る事は大事です。

心臓病といっても色んなものがありますが、共通しているのは、

心臓がダメになる

という事です。
(当たり前ですが…)

心臓の働きは血液を送る事ですから、
心臓がダメになると送り出される血液量が減ります。
心臓としては効率が悪くなる訳です。

ところが実際には、ほとんど送り出される血液量は減りません。

なぜでしょうか?


それは、心臓がいつもより頑張るからです。


  • 効率が2割落ちたのなら、2割増しで頑張る!
  • 効率が半分になったのなら、いつもの倍頑張る!!

という風に、
心臓の体育会系的・ど根性的頑張りによって、全身に送られる血液の量は保たれます。

そのおかげでほとんどの心臓病の場合、かなり長い間、何の症状も現れません

その、かなり長い間とはどれくらいでしょうか?

もちろん、その子その子によって違いますが、

  • 1〜2年はザラです。
  • 3〜4年くらいもいるでしょう。
  • もっと長い子もいると思います。

それくらい長い間、心臓はいつもよりも頑張った状態で動き続けます。

生き物の体は知れば知るほど恐ろしいほど複雑に、正確に、綿密に、
その時の状況に合わせて最適な制御をしています。

この心臓の頑張りもその一つなのですが、
無理した状態は永遠には続きません。

心臓が頑張りきれずに「もう駄目」と音を上げ始める時が来ます。
我々から見ても分かるレベルの心臓病になっていきます。

無理がたたると「心不全」

心臓は病気になって効率が落ちても、いつもより頑張る事により
血液を送り出す量を維持します。

ところが、その無理がたたる事により、心臓自体は早く駄目になっていきます。

その、心臓がいよいよ頑張りきれずに音を上げ出した状態を

心不全(しんふぜん)

と言います。

ですから、心不全とは病名ではありません
病気によって、心臓が充分な働きを出来なくなってしまった状態を指します。

心肥大や、心不全という言葉が病名のように扱われていますが、

  • (○○病になった影響で、)心肥大なんです。」
  • (○○病が進行して、)心不全になりました。」

という風に、カッコの中身が本当はあるんですね。

まあ細かい話になってしまいますので、マメ知識程度の認識で良いですが…

だから安静が大切

と言う訳で、心臓が悪くなっていく過程においては、

心臓の頑張りがむしろ悪影響

という一面があります。

そのため、ほとんどの心臓病の治療においては、

いかに心臓に頑張らせないか

がテーマであると言っても過言ではありません。

その、いかに心臓を頑張らせないかという戦略の一つに、「安静」というものがある訳ですね。

だ・か・ら、安静は大事なのです。

心臓病の時にもらうお薬の多くも、心臓に頑張らせないようにするお薬です。

放っておいたら勝手に頑張る心臓に対して、

「まあ、そんなに頑張らずに気楽に行こうよ」

とブレーキをかけるイメージです。


ですから、安静にするというのは天然の心臓病のお薬とも言えますし、
心臓病のお薬は、ついつい興奮しちゃう子でも心臓を休めてあげられる方法だとも言えます。


僕は現在心臓病を専門としていますが、いいなと思うところは他の分野に比べて
比較的身体に優しい薬が多いという点です。

例えばきっと皆さんがもらっている、
ACE阻害薬(例 エナカルド、フォルテコール、バソトップ、エースワーカーetc)
というお薬でしたら、間違って10倍の量を飲ませてしまってもほぼ平気です。

心臓って聞いただけで「うわあ恐ろしい!」みたいな反応を示す人は少なくないですが、
治療は結構マイルドにやっていたりします。

「やれる範囲で」安静に!!

「安静が大切なのは分かったけれども、ウチの子は安静にしてくれない」

という意見をお持ちの家庭は極めて多いと思いますが、その通りです。

例えばキャバリアなんてみんな人間大好きですし(伊藤の経験上)、入院していると落ち着いていて、退院時大喜びで毎回呼吸困難になるマルチーズなど、実際問題どうにも落ち着いてくれない子は僕も沢山見てきています。


そのため、

「やれる範囲で、穏やかに過ごせるように」

という基本姿勢がとても大事になります。

その基本姿勢をとった上で、

  • 穏やかに接する
  • 抱っこしてあげる
  • 優しくなでる
  • 優しく声をかける

などをしてあげると落ち着く事が多いです。

そういった一つ一つの技術的なお話しもしようと思いますが、
これらの事って、詰まるところ、しつけの範囲なんですね。

ですから、しつけの面から安静の方法を考えていくことも極めて重要です。

また、「全てのケースに当てはまる万能の方法は無い」ため、
出来るだけ多くのアイディア、方法を知っていると対応力は増します。

まず大切なのは落ち着ける環境作り

そういうしつけの視点から見ますと、まず大切なのは、

落ち着けるような環境作り

です。

有能なトレーナーさんは、もちろん犬と対面しても凄いのですが、
各家庭の事情に合わせた環境作りのアドバイスが上手いんですよね。

僕のいた病院のしつけ教室でも、最初は犬を抜きにして、
最低30分以上時間をとって家庭環境も踏まえたカウンセリングをやっていました。

各家庭ごとに状況が違いますから、「落ち着かせるための一工夫」みたいなアイディアはいくらでも眠っていると思います。

ここではいくつかのアイディアについて説明します。

穏やかに接する

飼い主さん自身が落ち着いて下さいね、という事です。

飼い主さんの態度に応じて、愛犬もテンションを変化させます。
病気の程度に合わせてですが、必要以上に興奮をあおるような動作は避けて下さい。

  • 犬の前で飛び跳ねる
  • 犬の前ではしゃぐ
  • 大声をあげる

もちろん、「あなたに楽しい事があっても喜ぶな!」という事ではありませんのでご注意を。
あなたが嬉しければ、愛犬も嬉しいですからね。

抱っこしてあげる

放っておくと、はしゃいで走り回るような子は抱っこしてしまいます。

後述の優しくなでる、優しく声をかけると組み合わせると更に有効です。

外出先から帰ってきた時などに効果的です。

優しくなでる、優しく声をかける

かなり効果的な方法の一つです。

飼い主さんが落ち着いてなでてくれたり、優しく声をかけてくれたりするのは
犬にとってとても嬉しい事ですし、とても落ち着きます。 

最近は犬のマッサージ法が色々紹介されるようになりました。
興味と時間のある人は本やスクールで学ばれるのも良いと思います。

しかし覚えておいて欲しいのは、一番大事なのは

心を込めて触れること

です。

どこをどういう風にマッサージするか?などのテクニックはその次です。

心を込めて、やさしく声をかけながら、
ゆーーっくり優しーーくなでてあげて下さい。

きっと愛犬もその方が嬉しいですし、効果も上がります。

ただ一つ注意点がありまして、心を込めるといっても、

  • 治ってね、治ってね、必ず治ってね
  • 大丈夫かな、この子大丈夫かな
  • この子かわいそう…
  • こんなマッサージに意味あるのかな…

などの呪いに近いような気持ちは込めないでくださいね。
逆効果になる場合もあります。

ちなみにちゃんとマッサージをすると副作用があります。
なんと一緒に飼い主も癒されます。

実は見方を変えれば、

飼い主であるあなたも、愛犬にとっては環境の一部です。

だから、あなたの対応を少し変えるだけで「落ち着かせる環境作り」の一つになると思います。

何かヒントを得られた方は、ご自身のやれる範囲で取り入れてみて下さいね。

代替医療も有効です

安静にするための方法をお伝えしてきていますが、しつけや飼い主の対処以外にも
有効な方法があります。

アロマテラピーやフラワーエッセンス、ホメオパシーなどの
いわゆる代替医療(だいたいいりょう)やホリスティック医療と呼ばれる方法です。

僕はこれらの分野の専門家ではありませんので個々のケースへのアドバイスや
対処をする事は出来ませんが、

「それって何?初めて聞いた」

という方もおられると思いますので、さわりだけでもご紹介したいと思います。

代替医療とは?

現在、皆さんが動物病院で受ける治療のほとんどは「西洋医学」に基づく治療です。
僕がここでお話ししているのもこの西洋医学の知識がほとんどです。

ですが、漢方針治療気功などの治療法も皆さんご存知ですよね?

これらは「東洋医学」に基づく治療法です。
同じように、西洋医学以外にも治療法は沢山存在します。

でも、あまりに西洋医学が有名で一般的になってしまったために、
世の中では「医療=西洋医学」のような認識になっています。

その観点から、他の治療法を見た呼び名が代替医療です。

代替(=西洋医学の替わりになる)医療

という事ですね。

なんか脇役的な呼ばれ方ですが、効果が無い治療法ではありません

ものの見方が違うだけなんですが、現在日本では圧倒的に西洋医学の方が有名なので
こんな呼ばれ方になっています。

西洋医学と代替医療の特徴の違い

西洋医学は身体を部分部分で細かく分析していくのを得意とするのに対して、
代替医療と呼ばれるものの多くは体全体のバランスを重視するという特徴があります。

そのため、「全体」という意味がある「ホリスティック」という言葉を使って、

ホリスティック医療

とも呼ばれます。
(厳密には色々定義があるようですが…)



これらの治療法の中に、

  • アロマテラピー(香りによる治療法)
  • フラワーエッセンス(花からとれる露による治療法)
  • ホメオパシー(患者さんの持つ性質と同じものを与えて回復を促す治療法)

などがあり、これらの治療法の得意分野に、

リラックスさせること

があると言う話でした。

やれる事をやってみたいという方は、選択肢に入れておいて損はないと思います。

最後に  あなたの覚悟も必要です。

  • 「心臓病を悪くさせないように、心臓に負担がかからないように、安静にさせたいんです!」
  • 「そのために、どうしたらいいんですか?」
  • 「上手くやるにはどうしたらいいんですか?」
  • 「ちっとも安静にしてくれないので、心臓が悪くならないか不安になります」

みなさん、愛犬のために、真剣に、必死に質問されます。

自分自身も経験がありますが、
結局、愛犬よりも、「自分が」怖いんですよね。

この子がいなくなってしまったら、「自分が」どうなってしまうんだろう。

そこに正面切って向き合いたくない。
何とかそれを回避できる方法、何とかそれを先延ばしにできる方法はないか。

  • 良い食事をあげればいいだろうか?
  • 良い獣医さんを見つければ良いだろうか?
  • 良いサプリメントを見つければ良いだろうか?
  • アロマがいいかも、ハーブがいいかも、ホメオパシーがいいかも、etc…

どれも大事です。大切です。

ただ、それらは手段です。
あなたの心を、希望を反映するための方法以上のものではありません

あなたの本心は、愛犬と幸せに暮らしたい、それだけだと思います。

  • 愛犬は長生きさえすれば必ずしも幸せになる訳ではありません。
  • 病気になったから、病気の症状があったから、長生きしなかったからという理由で
    必ずしも不幸せになる訳でもありません。


愛犬と楽しく前向きに暮らすというのは、
楽しい部分だけを見て暮らすという事ではなく、
時には辛い・見たくない部分とも正面から向き合っていく

そういう態度の事だと思います。


ただし、
全ての人に「今すぐ立ち向かえ!」「覚悟を決めろ!」と言っている訳ではありません

物事には、タイミングがあります。

「逃げる」という言葉には悪いイメージが付きまといがちですが、
僕はそうは思いませんし、「一休みする」という事が必要な時期もあると思っています。

過去に僕も様々な場面でそういう時期を経験していますし、
きっとこれからもあるんじゃないかなと思います。

ですから、今の発言は実際に大変な状況の愛犬と向き合って苦しんでいる人には
辛い言葉だったかもしれません。

傷つけてしまったのなら、ごめんなさい。


ただ、愛犬とのお別れのあとで、

  • 「悲しいけれど、後悔は無いです。」
  • 「やれる事はやってあげられました。」

とおっしゃって下さる患者さん達がいます。

一方で、ペットロス症候群という言葉に代表されるように、
長い時間、後悔され、苦しまれる患者さんもおられます。




何が違うのか?



僕はずっと疑問に思ってきました。


まだ確かな答えは見つかっていないですし、そもそも正解などがあるとは思っていませんが、
今までの経験から「こうではないか?」とつかんできた事は伝えておきたいと思い、
今回の内容を書きました。



いつものように解釈は人それぞれ自由ですが、
愛犬のために、今のうちに、あなたも考えて下さったら嬉しいです。

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