ここでは、愛犬の治療内容をきちんと理解するための「考えかた」について説明します。
治療のガイドライン
アメリカ獣医内科学会(ACVIM)が出している犬の僧帽弁閉鎖不全症のガイドラインによると、治療の概要は以下のようになっています。
※説明用に簡単にしています。原文を確認したい方はこちら。
このガイドラインは、世界の実績ある専門家たちがこれまでの研究成果を基に作っている信頼度の高いものです。
しかし、どんな凄い専門家でも、調べられていないことまでは分かりません。
残念ながら、まだまだこの病気については分かっていないことが多く、ガイドラインには「今のところ確たる証拠はないが、専門家個人としてはこう考える」的な意見も多く混じっています。
ガイドラインの中でも、それぞれのおすすめごとに「どの程度おすすめか」「根拠はどの程度あるか」が一緒に書いてあります。
なので、このガイドラインの信頼性は高いですが、絶対のものではありません。
もし、あなたの愛犬の治療がこのガイドライン通りでなかったとしても、イコール治療が間違っているとは限りませんので、疑問があればかかりつけの先生にご相談されることをおすすめします。
治療の開始時期
「いつからお薬を始めるべきですか?」という質問は多いですが、ガイドラインでおすすめされている僧帽弁閉鎖不全症に対する治療の開始時期は
僧帽弁閉鎖不全症によって、心臓のサイズが大きくなったと判定されてから
になります。
進行度としてはステージB2、だいたい中程度からという感じです。
これより早い段階のときには、有効性が証明された治療はありません。
心臓治療の目的
心臓の治療の手段はさまざまですが、治療の目的は
- 進行を遅らせる
- 症状をおさえる
に大別されます。
「よく分からないけど、何か心臓のお薬を飲ませている」という人もいますが、あなたは愛犬の治療の目的を理解しているでしょうか?
何のために治療をしているのかが分かれば、治療に対する納得度が違いますので、ここで学んでおいてください。
進行を遅らせる
1つ目の進行を遅らせる治療は、長生きを目指す治療とも言えます。
残念ながら、僧帽弁閉鎖不全症はお薬を使っても徐々に進行していく病気です。
しかし、「何もしなければ2年後には症状が出るまで進行するところを、お薬を飲んでおくと3年後くらいに先延ばしできる」のような治療は行なえます。
進行を遅らせることは意味のある立派な治療ですが、飼い主の立場からすると、なかなか効果が実感できない治療でもあります。
特に無症状の犬は、お薬を与えようが与えまいが、愛犬は変わらず元気です。
ある時、病気が進行して症状が出てきても、「お薬を飲んでいたから今まで先延ばしできたんだ。飲んでいなかったらもっと早かった」と実感するのは難しいでしょう。
上記の理由もあってか、飼い主さんが自己判断でやめることが比較的多い治療とも言えます。
こういう治療に使うお薬の例としては、ピモベンダン、ACE阻害薬などがあります。
症状を抑える
2つ目の症状を抑える治療は、愛犬を楽にさせる治療とも言えます。
僧帽弁閉鎖不全症は初期は無症状ですが、ある程度以上に進行すれば症状があらわれます。
このタイプの治療は、それらの心臓病の症状を抑えて、愛犬を楽に過ごさせてあげるためのものです。
こちらの治療は飼い主にも効果が分かりやすいという特徴があります。
咳が止まらなかった愛犬が、お薬を飲ませ始めたとたんに落ち着けば、飼い主としても嬉しいし、やりがいもあるでしょう。
この症状を抑える治療の例としては、フロセミドなどの利尿剤、酸素吸入などがあります。
心臓のお薬はやめられない?
「心臓のお薬を始めたら、生涯飲み続けなければいけない。やめると愛犬が急変する」という話がありますが、これは正確な表現ではありません。
正しくは
お薬による心臓へのサポートを最大限にしたいなら、結果的に生涯飲み続けることになる。
お薬の効果を求めないなら、やめられるケースもある。
になります。
僧帽弁閉鎖不全症は完治せず、じわじわと進行していく病気です。
風邪のような治る病気なら、病気の間だけお薬を使い、治ったらお薬をやめる方針もとれますが、心臓病は生涯付き合っていく形になるため、お薬のやめどきがありません。
そして、1回飲んだだけで生涯効き続けるお薬は存在せず、大半のお薬は、1日もすれば効果を失います。
以上より、「お薬による心臓へのサポートを最大限にしたいなら、結果的に生涯飲み続けることになる」が正しい表現になります。
逆に言えば、「お薬による心臓へのサポートが無くなっても構いません」と考えられるなら、お薬はやめられます。
「やめたら心臓が悪くなって急変するのでは?」と思うかもしれませんが、それは場合によります。
基本的に重症の場合は危険ですのでやめないほうが良いですが、病状が軽い子の場合はやめても急変しませんし、見た目には何も変わらないケースが多いでしょう。
誤解のないよう伝えておきますが、お薬をやめようという推奨ではありません。
かかりつけの先生がしっかりと愛犬を診てくれた上で処方されているお薬は、基本的にやめないほうが良いですし、もし内容に疑問があっても、するべきは自己判断でやめることではなく、先生に相談することです。
ただ、「お薬を始めたが最後、決してやめることはできない」という表面的な情報だけで怯える必要はありませんので、正確なところを把握しておきましょう。