犬の僧帽弁閉鎖不全症の原因について説明します。
原因は不明です
僧帽弁閉鎖不全症では、生まれたときは正常だった僧帽弁が時間とともにだんだん変化していきますが、そうなる原因や仕組みは不明な点が多いです。
全く何も分かっていないという意味ではなく
- 病気に関わる要因が多く複雑なので、理解が難しい
- あなたの愛犬がこの病気になったとしても、「〜が原因です」と言い切れることはまず無い
という意味合いでの不明です。
もう少し理解したい人のために、その辺りの事情を説明していきます。
弁が変化する要因は色々で複雑です
「Aという原因→病気」のような単純な図式を想像する人が多いですが、僧帽弁が変化する背景としては
- 弁にかかる力
- 体の中のいろんな物質
など、多くの要因が複雑に関わっています。
イメージをつかんでもらうために、ある論文(出典)に書かれている、僧帽弁が変化する仕組みの図を再現してみます。
どうでしょう?
日本語に訳せるところはしてみましたが、日本語のところすら難しいんじゃないでしょうか。
ましてや英語の部分なんて謎の暗号みたいで読む気が失せたかもしれません(笑)。
もちろん内容を理解する必要はなくて
- なんかすごく複雑
- 「弁が変化するのは〜が原因!」なんて一言で言える簡単な話ではなさそう
というイメージが伝われば大丈夫です。
まとめると、僧帽弁が変化してしまう原因は、色んな要因が考えられているものの複雑で、「これが原因!」と一言で言えないとなります。
弁の変化は老化によるもの?
「歳をとると弁が壊れてくるってことは、つまり老化ですか?」
と聞かれることもあります。
この質問への回答はけっこう難しく、最終的には「老化と病気の違いは何か」という話に行き着きますが、そういう話を抜きにしても
- 歳をとった全ての犬が僧帽弁閉鎖不全症になるわけではない
- 弁の変化は若い頃から始まっている(出典)
という事実を踏まえると、単純な老化の結果としてこの病気を説明するのは難しいかなと思います。
「高齢になると急に弁が壊れて病気になる」ではなく、「若い頃から、少しずつ弁が変化していき、ある時点から弁が閉まりきらなくなる」のは確かですが。
僕の診療経験でも、心エコー検査で僧帽弁の変化が分かるのは、早い子なら4〜5歳のイメージです。
見た目には普通の弁でも、1歳くらいでわずかな逆流が見られるケースもときおり経験します。(ただしこの状態を病気と呼ぶべきなのかには議論がありますが)
「〜をしたから心臓病になった」とは言えません
犬の僧帽弁閉鎖不全症の原因は不明なので
- 塩分をとりすぎるとなる
- 走らせたり興奮させるとなる
- 太らせるとなる
- 歯周病だとなる
- ○○を食べるとなる
などの話は、微妙な情報だと考えてもらって結構です。
完全否定するのは難しいですが、今のところ確かな証拠がある話でもなく、あくまで「そういう意見がある」というレベルのお話です。
これらの情報で「自分の育て方が悪かったから心臓病になったのでは…」と不安や後悔を抱える飼い主さんを多く見てきましたが、不確かな話で自分を責めたり、落ち込む必要はないと思います。
残念ではありますが、今のところは、我々が何かを知っていたり、何か特別な飼い方をすれば防げるというものでもないようです。
なりやすい子は
僧帽弁閉鎖不全症を発症しやすい子には、以下の特徴があります。
- 老齢
- 小型犬
- オス
犬種としては、チワワ、トイプードル、ミニチュアダックスフント、ポメラニアン、マルチーズ、ヨークシャーテリア、ミニチュアシュナウザー、キャバリアキングチャールズスパニエル、柴犬、ノーフォークテリア、ビーグルなどが例に挙げられます。
ただし、「心臓病になりやすい」と「心臓病になりにくい」の間にキレイに線を引くことはできません。
上記に挙げた犬種がみんな僧帽弁閉鎖不全症になるわけではありませんし、逆に、上記以外の犬種ならならないわけでもありません。
また、病気になりやすいかどうかと、進行しやすいかどうかは別の問題です。
たとえばキャバリアという犬種は、「若い頃から僧帽弁の病気になりやすいが、病気の経過は他の犬種と大きく違うわけではなさそうだ」とガイドラインに書かれています(出典)。
僕の診療経験上でも、たとえばトイプードルやミニチュアダックスフントは僧帽弁閉鎖不全症になる確率は高いものの、あまり進行しないで何とかなるケースが多い印象です。