猫の心筋症のタイプについて解説します。
まとめ
- 猫の心筋症にはタイプがある
- 肥大型心筋症は、心臓の筋肉の壁が分厚くなって(肥大)やられる
- 拘束型心筋症は、心臓の筋肉が線維(せんい)に置き換わってやられる
- 拡張型心筋症は、心臓の筋肉がやられて心臓が膨らむ(拡張)
- 不整脈原性右室心筋症はレアなので忘れましょう(笑)
- 非特異型(心筋症)は、他の分類に当てはまらないもの
- 心筋症のタイプの分類は、飼い主にとって最重要ではない
「心筋症」にはタイプがある
心筋症とは
- 心 心臓の
- 筋 筋肉の
- 症 病気
とあるように、心臓の筋肉がやられてしまった状態です。
しかし、そもそも心臓は筋肉でできた袋のような臓器です。
心臓がやられるのは、たいてい心臓の筋肉がやられることを意味しますので、「心臓病」と「心筋症」の意味があまり変わらないことになります。
それを受けてなのかどうかは分かりませんが、心筋症は「どんな風に」心臓の筋肉がやられるのかという視点で、いくつかのタイプに分けられています。
ここでは、2020年に発表された猫の心筋症のガイドライン(出典)に載っている
- 肥大型心筋症(ひだいがたしんきんしょう)
- 拘束型心筋症(こうそくがたしんきんしょう)
- 拡張型心筋症(かくちょうがたしんきんしょう)
- 不整脈原性右室心筋症(ふせいみゃくげんせいうしつしんきんしょう)
- 非特異型心筋症(ひとくいがたしんきんしょう)
について概要を説明します。
肥大型心筋症
肥大型心筋症はHCM(Hypertrophic CardioMyopathy)とも呼ばれます。
肥大とは「壁が分厚くなった状態」と思ってください。
なので肥大型心筋症は、心臓の筋肉の壁が分厚くなりつつやられた状態になります。
その結果
- 分厚くなったぶん、心臓内部のスペースが減る
- 分厚くなった壁が血流の邪魔になる
- 心臓が固くなり広がりにくくなる
- 心臓に酸素や栄養を届ける血流が少なくなる
などが起こり、心臓のポンプとしての機能が落ちていきます。
肥大型心筋症は猫の心筋症の中でも代表格で、人間の心臓病としても有名なので、聞いたことがある人も多いでしょう。
猫の心筋症の半分以上を、この肥大型が占めるという報告もあります(出典)。
個人的にはそこまで多くはない気はしますが、代表的なのは間違いない心筋症です。
拘束型心筋症
拘束型心筋症はRCM(Restrictive CardioMyopathy)とも呼ばれます。
これは心臓の筋肉が線維(せんい)というものに置き換えられてやられる状態です。
伸び縮みするための筋肉が違うものに代わるため、心臓は固くなり動きに問題が出てくるようになります。
ある報告では、拘束型心筋症は全心筋症のうち20%くらいとされています(出典)。
体感的にも、それなりに見かけるタイプの心筋症です。
拡張型心筋症
拡張型心筋症はDCM(Dilated CardioMyopathy)とも呼ばれます。
心臓の筋肉がやられ、うまく動けず血液を送り出しにくくなり、心臓内にたまった血液で心臓が膨らんだ(=拡張)状態です。
おそらく、一般の人が考える心臓病に近い状態かと思います。
ちなみに、「肥大型=心臓の壁が分厚くなる」に対して、「拡張型=壁が薄くなる」と考えている人も見かけますが、そこはあまり関係ありません。
小説の「チーム・バチスタの栄光」でも取り上げられるなど、肥大型と同じく、人間の心臓病としても有名なので、知っている人は多いと思います。
ただし、猫の拡張型心筋症はそれほど多くなく、ある報告では心筋症のうち10%程度とされています(出典)。
不整脈原性右室心筋症
別名、ARVC(Arrythmogenic Right Ventricular Cardiomyopathy)と呼ばれる心筋症のタイプです。
……ですが、猫ではまれな病気なので、ほとんどの人は忘れてもらって大丈夫だと思います。
仕事でずっと動物の心臓を診ている立場の僕ですが、まだ猫でこの病名をつけたことはないくらいです。
軽く説明しておくと、主に心臓の右側がやられて、そこから不整脈も一緒に起こるようなタイプの心筋症です。
非特異型(心筋症)
ひと昔前、分類不能型または未分類型心筋症(UCM: Unclassified CardioMyopathy)と呼ばれていた心筋症です。
特異(とくい)という用語に馴染みがないかもしれませんが、ここでは「典型的」くらいのイメージを持っておいてください。
なので、非特異だと「典型的でない」となるので、「肥大型や拘束型や拡張型など、どのタイプの分類にも当てはまらない。でも心臓の筋肉はやられているから心筋症とは呼べる」というような状態に対しての診断名です。
つまり、病状として決まった形はなく、さまざまな状態が含まれます。
ある報告では、この非特異型にあたる状態は10%程度とされています(出典)。
個人的にも、この非特異型と診断になるケースは多数派ではないものの、無視できない程度には見かける印象です。
分類はあまり重要じゃない!?
心筋症のタイプについて知ると、「ウチの子はどのタイプ?」「心筋症としか言われてないけど大丈夫?」などと気になる人も出てくるかと思います。
大切な愛猫のことですし、気になるなら先生に聞くのも良いですが、同時に、タイプ分けはそこまで重要ではないことも知っておいてください。
理由はいくつかあり、まず、そもそも現在の分類は完璧ではありません。
専門的なのでざっくり話しますが、そもそも心筋症という状態は多岐にわたるので、すっきり分類するのが困難です。
「人間を血液型だけでうまく分類できるか?」という話に似ていると言えば、イメージが伝わるでしょうか。
また、病状が進むと、これらのタイプが変化することがあります。
「最初は肥大型心筋症のように見えていたけれど、どんどん変わっていって、今は拡張型心筋症と呼んだほうが適切」みたいな変化をしていくこともありますので、最初についた診断にこだわっていてもあまり意味がありません。
そして、心筋症のタイプをきっちり診断できたとしても、残念なことに、今の獣医学では治療や今後の見立てにおいて、あまり違いが生まれません。
「肥大型だからこういう症状が出やすい」とか「拘束型だからこういう治療が良い」とか「拡張型だから生存期間はこうなる」などが言えればタイプ分けする意義は大きいですが、そういうケースは多くありません。
今後もっと獣医学が進歩することを期待しつつ、ひとまず現時点では、飼い主さんなら「心筋症にはいろいろと種類がある」くらい知ってもらえれば十分かなと思います。
まとめ
まとめると
- 猫の心筋症にはタイプがある
- 肥大型心筋症は、心臓の筋肉の壁が分厚くなって(肥大)やられる
- 拘束型心筋症は、心臓の筋肉が線維(せんい)に置き換わってやられる
- 拡張型心筋症は、心臓の筋肉がやられて心臓が膨らむ(拡張)
- 不整脈原性右室心筋症はレアなので忘れましょう(笑)
- 非特異型(心筋症)は、他の分類に当てはまらないもの
- 心筋症のタイプの分類は、飼い主にとって最重要ではない
というお話でした。
この情報があなたと愛猫のお役に立てば幸いです。