犬の僧帽弁閉鎖不全症の症状

犬が僧帽弁閉鎖不全症になるとどんな症状が出るのかについて解説します。

初期は無症状

僧帽弁閉鎖不全症になっても、初期は無症状です。
この段階では犬は元気で、全力疾走しても飛び回っても何ともありません。
飼い主的には「本当にウチの子は心臓病なのか?」と思うほどです。

逆に言えば、心臓病が原因で症状が出てくるのはそれなりに進行してからです。
心臓病による症状が出ているのであれば、すでに軽度の病状ではなく、中程度以上の進行度と考えられます。
犬の僧帽弁閉鎖不全症のガイドラインの分類で言うなら、B2の後半からCくらいのイメージです。

全て「心臓のせい」とは限りません

心臓病のインパクトが強いせいか、飼い主さんはついついどんな症状を見ても「心臓のせいでは?」となってしまいがちです。

  • 咳をする → 「心臓病が悪化した」
  • 食事をあまり食べない → 「心臓で苦しんでいる」
  • 興奮してハアハア舌を出している → 「肺に水が溜まったのでは?」

などの例は多いです。

確かに心臓病による可能性はありますが、診療経験上、心臓が関係ないケースも少なからずあります。
気になる気持ちは分かりますが、決めつけで慌てても良いことはありませんので、なるべく落ち着くよう心がけましょう。

観察のしかた

「心臓病の初期症状を見逃してはいけない」と考えている飼い主さんは少なくありません。

確かに、「症状が軽いうちに見つけたい」「少しでも苦しませたくない」「手遅れにさせたくない」は飼い主さん共通の思いでしょう。

しかし、だからと言ってこの方向性で頑張りすぎれば

  • 飼い主さんの努力が報われにくい
  • 暮らしが重苦しくなりがち

という側面もあるのは知っておいてください。

基本的に、症状が軽いほど見つけるのは困難です。
そもそも、見た目だけで全ての判断はできないから、獣医さんもわざわざ検査までしているわけです。
症状が軽ければなおさらで、問題ないのに症状があると間違える可能性も高くなり、せっかくの飼い主さんの頑張りが報われにくい状況と言えます。

そして、動物の立場からしても、過度な観察はストレスになりえます。
自分が愛犬だとして、飼い主から一日中「症状が出ていないか?」と目を皿のようにして見張られたらどう感じるでしょうか?(嬉しい子もいるかもしれませんが)

心配のあまり、わずかな変化に一喜一憂し、一番大切な「動物との楽しい暮らし」が見えなくなっている人もたくさん見てきました。
観察は目的ではなくて、あなたが愛犬と楽しく暮らすための手段ですから、これでは本末転倒です。

適切な観察は個々の家庭の状況によって違いますが、個人的には「誰でも分かる明らかな症状は見逃さない」くらいの意識をおすすめします。

症状


僧帽弁閉鎖不全症の犬の症状の一つに、咳があります。
これは、心臓病によって大きくなった心臓が、近くにある気管を圧迫することによって起こると言われています。

動物にも飼い主にも嬉しい状態でないのは確かですが、「咳は呼吸困難とは違う」という理解は重要です。
自分が咳をしているときを想像してもらえば分かりやすいかと思いますが、咳をしている本人の感覚としては「わずらわしい」という感じであって、「息が苦しい(呼吸困難)」ではありません。

また、咳は心臓病以外の理由でも起こります。
年寄りの小型犬は同時に気管の問題を持つ子も多いですし、風邪みたいに一時的に咳が出ているだけ、水を飲んでむせているだけ、のようなケースもあるので、咳をみんな心臓のせいと決めつけるのは禁物です。

呼吸困難(肺水腫)

心臓病が進行し、肺に水が溜まる(肺水腫)と、呼吸が苦しくなります。

肺に水が溜まるのは、心臓が血液の渋滞でパンパンになり、その心臓の手前にある肺の血管まで渋滞が及んでパンパンになった結果、肺の血管から肺の中に液体が滲み出てくるからです。

呼吸は生き死にに直結しますので、この肺水腫による呼吸困難でお別れというのは僧帽弁閉鎖不全症の典型例の1つです。

ただし、物事は0か100ではなく、程度の視点から考えることが大切です。
肺水腫も例外ではなく、「どんな子も息ができなくなる」わけではありません。

  • ちょっと水は溜まっているけれど、まだ全然平気
  • まあまあ水が溜まっていて、息苦しい
  • かなり水が溜まっていて、かなり息苦しい

などと程度はさまざまですので注意してください。

疲れやすい

運動不耐性(うんどうふたいせい)とも呼びます。
心臓病によって血液のめぐりが悪くなった結果、いつもより動けなくなる、動きたがらなくなるイメージです。

ただし、僧帽弁閉鎖不全症は一般的に老犬の病気なので、病気のせいで動かなくなったのか、それとも加齢であまり動かなくなったのかを見極めるのは難しいことが多いです。

ふらつく、倒れる(失神)

心臓病によって脳への血流が不足した結果、ふらついたり倒れたりすることがあります。
立ちくらみをイメージすると近いでしょう。

こちらも心臓病以外の原因でも起こりえるので、本当に心臓が原因なのか分かりにくいケースも多いです。

また、おそらく人間の心臓発作のイメージなんでしょうが、「胸が痛いのでは?」や「苦しがっているのでは?」などと思われがちです。
確かに、ふらついている時は自分の意思通りに身体が動かせるとは限らないので、ジタバタしたり、声をあげたりと、苦しそうに見えることはありえます。
ただし先に述べたように、心臓病によるふらつきは立ちくらみのようなイメージですので、痛みはないと考えてもらって結構です。

元気・食欲の低下

心臓病が進行すると、愛犬の元気や食欲に変化が出ることもあります。

心臓以外の問題でも元気・食欲が落ちることは当然ありえるので、これだけで心臓の状態が分かるわけではありませんが、飼い主さんの立場からすると自分でチェックしやすい項目でもあります。

生き物には個体差がありますから、もともとあまり動かない子、食ムラがある子もいます。
そういう子たちが、ちょっと動かなかったり食べなくても問題はありません。

重要なのは変化の大きさですので

「普段と比べて」元気・食欲があるか?

という視点で考えましょう。

食べているのに痩せる

食べなければ痩せていくのは当然ですが、心臓病が進行すると、食べているのにもかかわらず痩せていくことがあります。
専門的には悪液質(あくえきしつ)と呼ばれる状態で、病気による消耗だけでなく、血流の悪さによる栄養の吸収・利用への影響、心臓病によって変化する体内のさまざまな物質の影響など、多くの要因が関わった結果起こります。

その他

心臓に限らず、体内の全ての臓器はつながっているので、心臓病が末期に近づくほど色々なことが起こり、何でもありな感じになってきます。
例としては、下痢、腎臓や肝臓の数値の増加、お腹が張るなどがあります。