犬の僧帽弁閉鎖不全症の検査

僧帽弁閉鎖不全症の犬の診察でよく登場する検査を簡単に紹介します。

身体検査

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見たり(視診)、触ったり(触診)、聴いたり(聴診)して、全身を調べる検査です。
いわゆる「獣医さんに診てもらった」というのは、この身体検査のことを指すことが多いでしょう。

聴診器以外には機材も必要なくお手軽に行え、動物の苦痛も無く、それでいて心臓に限らず全身の情報がたくさん得られるという大変お得な検査です。

僧帽弁閉鎖不全症に関して言えば、主に体型、心拍数、心拍のリズム、心雑音の有無・種類・程度、呼吸の状態、異常な呼吸音の有無・種類・程度、咳の有無や程度、脈の状態、粘膜の状態などをチェックします。

「心雑音=心臓病」ではありません

「心雑音が聴こえたら心臓病が疑われる」は間違ってはいませんが、疑いと確定は違います。

  • 心臓病だけれど心雑音はない
  • 心雑音はあるけれど心臓病はない

というケースもあるので、勘違いしないよう注意してください。
聴診は大切ですが、基本的に聴診だけで確定できる心臓病は無いと考えてもらって結構です。

「心雑音のグレード=心臓病の進行具合」ではありません

心雑音の大きさを表すのに使う、Levine(レバイン)分類というものがあります。
一番小さい心雑音であるグレード1から始まり、最大でグレード6までの大きさに分ける方法で、獣医さんから「6段階中の〜」と言われたら、この雑音の分類だと思ってください。

これはあくまで雑音の大きさの分類なので、病気の進行具合と完全に一致するわけではありません
6段階中の6になっても死ぬわけではありませんので注意してください。

心エコー検査

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心臓超音波検査とも呼びます
「 妊婦さんの検診で胎児を見るあの検査」といえばイメージしやすいでしょうか。

現代の心臓の検査においては要となる検査で

  • 心臓の内側の構造まで見える
  • 心臓が動いているところが見える
  • 血液の流れ、向き、速さも調べられる
  • 痛みや被曝など動物の身体への負担もない

という優れた特徴があります。

僧帽弁閉鎖不全症に対しては、病気かどうかの判断(確定診断)ができるだけでなく、病気の進行具合の判断(重症度評価)にもほぼ必須の検査です。

今ではエコーは多くの動物病院に導入されていますが、高性能なものになるとかなりのお値段になります。
また、使いこなすのには技術が必要ですが、普通の獣医さんは心臓に限らず幅広い病気を診る必要があるため、どんな先生でも心エコーが得意とはなりません。
以上のような背景もあり、「どの病院でも高性能なエコーがあって、きちんとした心エコー検査が受けられて当たり前」ではありませんので、注意点として知っておくと良いでしょう。

胸部レントゲン検査

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正式には胸部X線検査といいます。
レントゲンによって身体の内部まで見ることができる検査です。
基本的には横からと正面からの2方向から撮ります。

心臓に関しては、主に全体的な形や大きさが分かります。
心エコーのように内部の構造や、動いているところや、血液の流れを見ることはできません。

一方で、心臓だけではなく、胸の血管や、肺や気管支などの呼吸器も一緒に調べられるという利点があります。
僧帽弁閉鎖不全症は進行すると呼吸器に影響を及ぼしますので、呼吸器の状態を見ることはとても大切です。
特に、肺に水が溜まっている(肺水腫)かどうかについては、心エコーだけでは判断しきれないため、このレントゲン検査が力を発揮します。

放射線被曝が気になる人もいるかと思いますが、結論からいえば被曝量はわずかなので心配するほどではありません。
イメージとしては、あなたが過去に受けたレントゲン検査と同じくらいの負担と考えれば良いでしょう。
「犬は身体が小さいから負担が大きい」という声もありますが、放射線の強さは動物のサイズに合わせて調整するので、人間より負担が大きいわけではありません。

心電図検査

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心臓を動かす合図となっている電気を調べる検査です。
やり方は人間と似ていて、犬に横になってもらい、電極と呼ばれるものを両手両足につけて行います。

心電図検査で分かることとしては

  • 心拍数
  • 不整脈の有無、種類、程度
  • 心臓のサイズや向きの変化
  • 体内のミネラルの変化

あたりになりますが、この中では圧倒的に不整脈が重要です。

不整脈を正しく診断するためには、心電図検査が最適です。
僧帽弁閉鎖不全症はそんなに不整脈を起こす心臓病ではありませんが、不整脈を合併する子もいますし、その場合は治療内容も変わりえます。

余談ですが、不整脈は「病気の不整脈」と「病気ではない不整脈」の2つがあります。
特に犬は呼吸性不整脈という病気ではない不整脈が出やすいため、自宅で心拍がおかしいと思っても、それだけで病気の不整脈かは分かりません。

また、最近の心電図装置には、波形を読んで判定を出す自動解析機能が備わっていますが、この機能は完璧ではなく、機械が「心臓肥大の疑い」などと判定してきても確定ではありません。
機械の結果を鵜呑みにせず、きちんと獣医さんに心電図を読んでもらうことが大切です。

血圧測定

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名前の通り、血圧を測る検査です。
「動物はどうやって血圧を測るんですか?」とよく聞かれますが、原理は人間と同じで、手足や尻尾にカフというものを巻きつけて血圧を測ります。

測定の原理は一緒でも、様々な点からきちんと動物の血圧を測るのは難しく、何度も測定を行うため意外と時間や手間がかかる検査でもあります。

この検査で分かるのはもちろん血圧ですが、実際のところ、僧帽弁閉鎖不全症が原因で高血圧や低血圧になる犬はあまりいません。

しかし

  • (僧帽弁閉鎖不全症になりがちな)高齢の犬は、心臓以外の問題で高血圧になっていることがある
  • 心臓の治療に使うお薬は血圧に影響を与えるものが多い

などの理由から、血圧は測っておいたほうが良いでしょう。

心臓バイオマーカー

血液検査の項目のうち、心臓の状態を調べるためのものを心臓バイオマーカーと呼びます。
心臓バイオマーカーは複数ありますが、犬の僧帽弁閉鎖不全症に対してはNT-proBNP(エヌティープロビーエヌピー)が有名どころです。

NT-proBNPは心臓が作っているホルモンのようなもので、主に心臓が膨らむときに血液中に放出されます。
心臓病が進行すると、血液の渋滞を起こして心臓が膨らんできますので、それでNT-proBNPの数値も上がってくるというイメージです。

この検査の特徴は、なんと言っても血液検査というところです。
動物病院としては日常茶飯事の採血で行えますので、心エコーやレントゲンよりも実施できる施設が多いというメリットがあります。

一方、外部の検査機関に血液を送って測定してもらうため、採血をした日のうちに結果が出ないデメリットもあります。

また、結果が数値で出るので、飼い主さんにとっても解釈が分かりやすく思えますが、実際にはそう簡単でなく、この数値だけで全てが判断できるわけではありません。
数値の上下で一喜一憂する飼い主さんも見かけますが、あくまで他の検査と合わせて使う補助的なものと考えることをおすすめします。