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胸水・腹水はなぜ溜まるのか?

質問

病院で診察の結果、腹水がたまっているとの診断でした。

あまり良い状態でないのは分かりますが、どうして腹水がたまるのでしょうか?
また、なぜ薬で腹水を減らせるのか?
教えてください。

友達の家のワンちゃんもやはり心臓が悪いのですが、腹水がたまっているそうです。
でも、かかりつけの先生が腹水にも栄養分があるからと、そのままにしているのだそうです。
14歳で高齢だからでしょうか?

ご意見お聞かせ下さい。

回答

ご質問ありがとうございます。

腹水が溜まる原因ですが、色々です。

全て話すと膨大になりますので、
ここでは心臓病の場合についてお話しさせて頂きます。

そして、腹水だけでなく、肺に水が溜まる場合、胸水が溜まる場合についても
一緒に解説して行こうと思いますのでよろしくお願いします。

心臓病の種類は様々ですが、共通しているのは心臓が駄目になる点です。

心臓は血液を送り出すポンプですから、
心臓が駄目になると、血液を送り出す量が減ります。

血液を送り出す量が減ると、本来送り出されるはずだった血液はどこに行くのでしょうか?

突然無くなったりはしないですよね。
当然、送り出されないので、心臓に溜まってしまいます。

この、血液が溜まってしまう状態の事を

「うっ血」(うっけつ)

と呼びます。

血液の渋滞と考えてもらえばOKです。
この、うっ血という血液の渋滞が心臓で起こると、心臓が大きく膨れ上がってきます。
この状態を見て、「心臓が大きくなった」と我々は言っています。
(心肥大とは厳密には違います。詳しくは拡張型心筋症と心臓肥大の違いをどうぞ)

渋滞という言葉も出てきましたし、車でイメージしましょう。

どこかで事故が起こった場合、そこから渋滞が起こりますよね。
程度は様々でしょうが、もし大きな事故だった場合はどうでしょう?

当然、事故の程度に合わせて渋滞も大きくなっていきます。
どんどん渋滞の列が長くなっていき、後続車に影響が出始めます。

そこを頑張って我慢してノロノロ〜と事故現場まで進みます。
事故の現場、すなわち渋滞開始地点さえ抜けるまでの辛抱です。
そこさえ越えてしまえば後はスイスイと進みます。

ここがポイントです。

事故の影響は、事故の起こった地点よりも「手前に」出てくるんです。

心臓も同じです。

  • 事故現場 = 心臓のダメになった場所
  • 車    = 血液
  • 道路   = 血液の通る道(心臓や血管)

と置き換えるだけです。

心臓のどこかがダメになると、その影響は手前に及びます。

次は血液にとって「どっちが手前か」の理解が重要です。

大雑把に言って、血液の流れはこうです。

 全身 → 心臓 → 全身(以下繰り返し)

全身から帰ってきた血液を、心臓というポンプがまた全身に送り出します。

この流れをもう少し詳しくします。

血液の大事な働きの一つに「身体に酸素を届ける」があります。
酸素はどこでもらってくるのか?
そう、呼吸を行うところ、肺ですね。

血液の流れをちょっと詳しくするとこうなります。

 全身 → 心臓 → 肺 → 心臓 → 全身

全身から帰ってきた血液を、肺に送り出して呼吸させる。
そこからまた心臓に戻ってきた血液を、改めて全身に送り出す。

こんな流れです。
文章だけで書いているので、ちょっとややこしくなってきましたかね?

ここからもう一段階だけ詳しくします。

実は、心臓の内部はいくつかのお部屋に分かれています。
そのお部屋は、大きく分けて右側と左側に分けられます。

  • 心臓の右側
  • 心臓の左側

の二つですね。

右側を右心(うしん)、左側を左心(さしん)と呼びますが、
細かい名称はどうでもいいので右側、左側とお話ししていきます。

この右側、左側を含めて血液の流れを書きますと、

 全身 → 心臓の右側 → 肺 → 心臓の左側 → 全身

となります。

全身から来た血液を心臓の右側で受け取る
 ↓
心臓の右側から肺に血液を送る
 ↓
肺でガス交換
 ↓
肺から心臓の左側に血液が帰ってくる
 ↓
心臓の左側から全身に血液が送られる

という流れなのですが、文章で書くとやっぱりややこしいですね。
絵も見て理解したい場合は心臓の形・働きをご覧下さい。

ではいよいよ、水が溜まる仕組みについて説明していきます。

犬で一番発生が多い、僧帽弁閉鎖不全症(そうぼうべんへいさふぜんしょう)を
例にして説明します。

僧帽弁閉鎖不全症は、僧帽弁がダメになる病気です。

僧帽弁はどこにあるかと言うと、心臓の左側にあります。

  絵で見たい方は僧帽弁とはをご覧下さい
  

ここで問題です。

「心臓の左側にある僧帽弁がダメになった場合、その影響はどこに出てくるでしょう?」

 <ヒント>
 ・心臓のどこかがダメになると、その影響は手前に及ぶ
 ・血液の流れは 全身 → 心臓の右側 → 肺 → 心臓の左側 → 全身




…分かりましたか?

まず心臓の左側が影響を受けます。
事故の発生現場ですから。

その次はどこに影響が及ぶでしょう?

渋滞の影響は手前に出てくるんですから……
そう、肺になります。

肺に血液の渋滞(=うっ血)の影響が現れ始めます。
心臓がパンパンになるのと同じように、肺の血管も渋滞でパンパンになります。
血圧が上がっていきます。

そして、そのパンパン具合がひどくなりすぎると、

血液の液体成分が血管を通過して、染み出てきます。

あんまり渋滞がひどいと抜け道を探して出て行く車が出てきますよね?
あんなイメージです。

このようにして、肺の中に水が溜まってしまった状態を

肺水腫(はいすいしゅ)

と呼びます。

心臓病の子で「肺に水が溜まってしまった」という場合はこの肺水腫を指しています。

程度の差はありますが、肺に水が溜まった状態とは、
溺れて水を飲んだ状態と変わりません。
結果的に呼吸が苦しくなります。

次は腹水・胸水です。

と言っても、原理は同じです。

しつこいようですが、以下の流れを見つつ考えて下さい。

全身 → 心臓の右側 → 肺 → 心臓の左側 → 全身

胸水とは、胸の中に水が溜まる状態です。
上の流れでは、肺のあるところが胸に当たります。

腹水とは、お腹の中に水が溜まる状態です。
上の流れでは、全身と書いているところに含まれます。

それぞれの部位に血液の渋滞(=うっ血)が及べば、水が染み出してくるんですね。

だから、心臓の右側がやられると溜まりやすいのは腹水です。
フィラリアという心臓に寄生する虫も心臓の右側に寄生しますので、よく腹水が溜まります。
心臓の右側には三尖弁(さんせんべん)という弁がありますが、ここがダメになっても
やはり腹水が溜まります。

かなりしつこくて恐縮ですが、そういう気持ちで以下の流れを見て下さい。

(学習の基本は「繰り返し」ですので、わざと繰り返しています)

全身 → 心臓の右側 → 肺 → 心臓の左側 → 全身


理屈だけで考えていくと、

 心臓の左側の僧帽弁がやられた
  ↓
 肺に影響(肺水腫)
 胸に影響(胸水)
  ↓
 心臓の右側にも影響
  ↓
 全身にも影響(腹水)

と、何でもありな状況も理論的には考えられます。

そういう子がいない訳ではありませんが、出やすい症状は事故現場の近くになります。

絵を描いて説明できれば楽なんですが、ちょっと難しいと思います。
分かりにくければ繰り返し読んでみて下さい。

胸水と腹水が溜まると何が起こるのか?

「胸水、腹水、肺の水(肺水腫)がなぜ溜まるのか?」
についてお話ししてきました。

肺水腫は肺に水が溜まった状態なので、陸にいながら溺れているようなもの。
だから呼吸が苦しくなるという話もしました。

では、胸水と腹水はどうでしょうか?
胸水と腹水が溜まると何がいけないのでしょうか?

一言で言うと、

溜まった場所にある臓器を圧迫するから良くない

になります。

それをちゃんと理解するために、知っておきたい事があります。

まずはそこからです。

実は生き物の身体の中には大きな空洞が二つあります。
どこか分かりますか?

それは、胸とお腹です。

外からだと見えませんが、胸とお腹は中が空洞になっています。
その空洞の中に、心臓や肝臓や大腸などの、色んな臓器が入っています。

空洞になってなかったら、何の臓器も入りませんからね。
それぞれの空洞に入っているものを挙げると、

  • 胸  心臓、肺など
  • お腹 肝臓、腎臓、膀胱、胃、小腸、大腸、などなど

になります。

どうイメージすると分かりやすいでしょうか………

そうですね、頭の中で段ボール箱を2つくっつけて下さい。
片方の箱に「胸」と書きます。
もう一つの箱は「腹」と書きます。

この段ボール箱に頭や手足をつけて犬にして下さい。
「小学生が段ボールで、犬作ってみました!」みたいなイメージです。

この「胸」「腹」の箱のフタを開けた内部が、先ほど言った空洞にあたります。

ですから、

  • 「胸」の段ボール箱の中には心臓や肺が、
  • 「腹」の段ボール箱の中には肝臓や腸が

詰め込まれている感じです。

それを踏まえてまずは、胸の部分です。

心臓と肺が入っていますが、どちらも袋状の構造をしています。

  • 心臓 血液の入った袋
  • 肺  空気の入った袋

と考えてもらえばいいです。
更に例えるならば、

  • 心臓 水風船
  • 肺  普通の風船

みたいなものです。

段ボール箱の中に、水風船と、普通の風船がいっぱい詰まっている状態

これが正常な胸の中です。

では、ここに水が溜まっていくとどうなるか?

胸水は胸の空洞に水が溜まった状態ですから、
上の例でいうなら、段ボール箱の中に水を注いだのと似た状態になります。

(すいません、段ボール箱で話しちゃいましたけど、水は外に漏れないものとして
 お考え下さいm(__)m)

段ボールのスペースの中に水がどんどん入ってくると、
もともとそのスペースにあったものが徐々に圧迫されてきます。

もちろん、圧迫される程度は水の量によります。
正常でもわずかな胸水、腹水はあるので量が大事になります。

水がどんどん溜まってきて、一番最初に影響を受けるのはどこか?

それは肺です。

空気の入った風船ですから、外からの圧力に一番弱いんです。

ただの風船なら結構耐えるかもしれませんが、肺は膨らんだり縮んだりする風船です。
外から押されると、膨らめなくなってきます。

肺が膨らめないという事は、息が吸いにくいという事です。
息が吸いにくいのですから、呼吸が苦しくなります。

肺水腫との違いが分かりますか?

  • 肺水腫による呼吸困難は、
    肺の内側(=風船の内部)に水が溜まってガス交換がしにくくなったため
  • 胸水による呼吸困難は、
    肺が外側から水によって圧迫されて膨らめなくなったため

になります。

一方、腹水は

腹水も溜まってくると、胸水と同じ理由でお腹の臓器を圧迫します。
思わず食べ過ぎた後、圧迫感がありますよね。
あんな感じになります。

しかし、腹水は、

  • お腹には肺ほど圧迫に弱い臓器がない
  • お腹のスペースは胸より膨らみやすい

という理由から、胸水ほどの緊急性はありません。

よほどひどくなってくると、
元気、食欲が落ちたり、吐いたりなどの症状が出てきます。

まとめますと、

「胸水、腹水が溜まると何がいけないのか?」に対する答えは、

「溜まった場所にある臓器を圧迫するから」

になります。

胸水、腹水の対処・治療法について

次に、

「胸水・腹水が溜まった場合の対処法はどうするのか?」

についてお話ししていきます。

戦略としては二つあります。

  1. 水が溜まらないようにする
  2. 溜まった水を抜く

です。

まずは1の「水が溜まらないようにする」から。

水が溜まらないようにするために、水が溜まる原因を何とかします。

水は血液の渋滞が原因で溜まっていくんでしたから、
いかに渋滞を解消していくかが大事なポイントです。

車の渋滞を解消する作戦にはこんなものがあります。

  • 道を広くして、車が通りやすくする
  • 車の通行量自体を減らす

これを、心臓の問題に置き換えると、

  • 血管を拡張して、血液が通りやすくする
  • 血液の量自体を減らす

になります。

そのために使われるのが、

  • 血管拡張薬(けっかんかくちょうやく)
  • 利尿薬(りにょうやく)

です。

血管拡張薬は読んで字のごとくで血管を拡張しますから、そのまんまです。

利尿薬が何で有効かと言いますと、

 利尿剤を使う
  ↓
 おしっこが沢山出る
  ↓
 身体の水分が出て行く
  ↓
 血液の水分も減る
  ↓
 血液の量が減る

という仕組みになっています。

ですから、腹水・胸水が溜まったり、肺水腫で苦しいような状況では
血管拡張薬と利尿薬が使われます。

これらを上手く使えば、血液の渋滞が緩和されます。
水も溜まらなくなっていきます。
すでに溜まっていた水も引いていきます。

渋滞から逃れようと抜け道にそれていった車が、
渋滞が解消したのに気が付いて元の道に戻ってくるような感じですね。

実際、上手く使えば効果は絶大で、
これらの薬のおかげで一命をとりとめる例は少なくありません。

「心臓を治療する上で、使っていい薬は一種類のみ!」

ともし言われたら(そんな状況ないでしょうが)、僕は利尿薬を選びます。
もちろん副作用にも気をつけて慎重に使いますけれど。

次は戦略の二つ目、「溜まった水を抜く」です。

物理的に溜まった水を抜く方法について説明します。

方法はシンプルで、

胸水なら胸、腹水ならお腹に針を刺して、そこから水を吸います。

  • 薬では水を引かせきれない時
  • 緊急で薬が効くまで待っていられない時

に使われる方法です。

水さえ抜いてしまえば圧迫は無くなりますので、
上手くいけば、さっきまでハアハア言って苦しんでいた子が
あっという間に楽になっていきます。

ただ、薬の場合も同様ですが、これらの方法は根本原因を解決していません。

「薬は血液の渋滞を緩和するんでしょ?原因を解決してるじゃない。」

と思われるかもしれませんが、渋滞の起きる原因は解決していないんですね。

根本原因とは何かと言うと、心臓の事故発生現場です。

この原因を治療できる心臓病はあまりありません。
大半の治療は対症療法です。

でも、「だから皆さんあきらめて下さい、絶望してください」と言う話ではありません。
対症療法で上手〜く逃げ切る子だって結構いるんですから。

そうではなくて、

「対症療法なので、使いどころの判断が大事」

と伝えたいんですね。

腹水・胸水が溜まったらすぐ抜いた方がいいとは限りません。

胸水の方が緊急性が高いため早めに抜きますが、
腹水・胸水のどちらも程度を見て水を抜くか判断します。

この判断の時に出てくるのが、

  • 腹水には栄養分が含まれている
  • 溜まった水を抜くと、また水が溜まりやすくなる

というポイントです。

まず「腹水には栄養分が含まれている」ですが、それは事実です。
それゆえ出来るだけ腹水を抜かないという先生もおられます。

ただ、腹水を抜かずに放置しても、
腹水の栄養分が再利用できるかは不明なので意味が無いのでは?
という意見もあります。

次に、「水を抜くと、また水が溜まりやすくなる」、これも一理あります。
沢山水が溜まった状態では、圧迫もありますが、水が溜まりにくくなるからです。

これは、

渋滞を避けて脇道に抜けようとしたが、その脇道も渋滞していたのでやめた

という状況を考えてもらえれば理解しやすくなります。
水が出て行く先に水が沢山溜まっていると、出て行きにくくなるんです。

とは言え、あまり水が溜まりますと、本人が苦しくなりますから放ってはおけなくなりますが。

結局、色々な要素はあるけれど、

総合的に判断して、

  • 抜いた方が楽になりそうなら抜く
  • 抜くまでもない状態なら抜かない

が結論になります。

もちろんその判断は獣医師の専門的な仕事になります。
皆さんは「そういう感じなんだ」と理解してもらえれば結構です。

水が溜まった = アウト ではありません。

確かに心臓病で水が溜まっているのでしたら、心臓病の程度としては進行しています。
通院が必要になるケースもあります。

でも、水を抜きつつ長期間頑張っている子も多くいます'。

かかりつけの先生とよく相談されて、愛犬とあなたが幸せになれる方法をとって下さいね。

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